
wired.jp · Feb 15, 2026 · Collected from GDELT
Published: 20260215T094500Z
VO2 maxは、実はとてもわかりやすい生体指標のひとつだ。限界まで負荷をかけられたとき、肉体がどれだけ効率よく酸素を使えるかを示す数値なのだ。「最大酸素摂取量(maximal oxygen uptake)」の略語であり、心肺機能の高さを測る代表的な基準として1950年代から用いられている。最近まで、この指標は主に研究機関や一流アスリートの養成施設で使用され、精鋭のスキー選手やランナー、サイクリストから最大のパフォーマンスを引き出そうとするコーチ陣を支えてきた。ところが、いまやVO2 maxはそうした研究施設を飛び出し、一般層にも広く普及するようになった。フィットネストラッカーや長寿をテーマとするポッドキャスト、健康度の数値化サービスが売りものの健康増進クリニックなど、さまざまな場所でVO2 maxという言葉が聞かれるようになっている。昨年わたしは、総合ウェルネス施設Canyon Ranchのパフォーマンス・ラボ・センターを訪ね、自分のVO2 maxを測ってみた。胸には心拍モニターを、顔にはダース・ベイダーを思わせるがっちりしたマスクを装着させられる。時刻は朝8時。寝不足のうえ、昨夜から何も食べていないわたしを乗せたトレッドミルは、徐々に速度と傾斜を増し、限界へと近づいていく。BGMもなければ、妙に元気なインストラクターが大声で励ましてくれるわけでもない。ときどき検査技師が、どれだけ限界に近づいているかを、1から10の数字で示すよう尋ねてくるだけだ。検査手順は単純だ。運動の強度が上がるにつれ、酸素消費量が上昇し、やがてそれ以上は増えなくなる。このプラトー(横ばい)に達した時点の酸素消費量がVO2 max、すなわち有酸素能力の上限値だ。わたしの忍耐力が尽きた瞬間とほぼ同時に、検査は終了した。結果は翌日に知らされるという。息切れが収まらぬなか、最初に頭に浮かんだ言葉は、「もっと行けたかもしれない」だった。こうした迷いを引きずってしまうことも、VO2 maxを腹立たしくも説得力のある指標にしている要因のひとつだろう。目次VO2 maxとはVO2 maxの測定専門施設外での測定VO2 max測定の限界VO2 maxを高めるには記事に登場した専門家たちのプロフィールVO2 maxとはPhotograph: Peter Schiazza/Getty Images「VO2 maxは、人体のエネルギー・システムが運動中にどれだけの酸素を取り込み、利用できるかを客観的に示す指標です」と、イェール大学医学部整形外科の准教授であるエリザベス・ガードナーは説明する。人体は常に酸素を消費し、エネルギーを生み出しているが、VO2 maxが示すのは運動のピーク時に体が利用できる酸素の最大量だ。全力で運動しているとき、体に何が起きているのかを示す指標とも言える。VO2 maxが高い人ほど、筋肉に血液を送る心肺機能の効率性が高く、血液から酸素を取り込んでアデノシン三リン酸(ATP)を生成する筋肉の働きが優れているということになる。「早期死亡リスクを予測するうえで、VO2 maxは現時点で最も有力な指標です」と、スタンフォード大学医学部の心血管医学部に所属する運動生理学者で上級研究技術者のマリーン・リンドルムは言う。VO2 maxの値が高いほど、心血管疾患、2型糖尿病、脳卒中、特定のがんの発症リスクが低下するとの相関関係が明らかになっている。また病気の予防にとどまらず、心肺機能の強化が睡眠や気分の改善をはじめ、全般的な生活の質(QOL)の向上につながることもわかっている。「持久系スポーツで最高の成果を得たいと切望する人にとって、特に有用な指標です」と、イリノイ工科大学スポーツ・イノベーション・センターの副所長を務めるタイラー・マクウォリティは言う。「VO2 maxを基にランニングのペース配分や強度を調整し、自分に合ったインターバルトレーニングを実行できるからです」VO2 maxに影響を与えるものとして、遺伝、性別、体組成などいくつかの要因が挙げられる。また、その数値は加齢とともに自然に低下し、30歳以降は毎年およそ2%ずつ減少するとされる。しかし、VO2 maxはトレーニングによる改善が十分に可能であるという事実は、多くの人にとって朗報だろう。持久系トレーニングや高強度インターバルトレーニング(HIIT)を定期的に行うことで、VO2 maxの改善に加え、加齢に伴う心身の衰えを遅らせる効果も期待できる。VO2 maxは、「運動中の体が体重1kg当たり1分間に何mLの酸素を取り込めるか」を数値化した指標だ(mL/kg/min)。「体重が関与しているのは、運動に必要なエネルギーを生み出すのが、その人自身の肉体だからです」と、リンドルムは説明する。VO2 maxの測定VO2 maxを正確に測定するには、「パフォーマンス・ラボ」と呼ばれる専門施設の利用が最も望ましい。この種の臨床施設は、被験者が一定の監視下でテストを受け、最大限の運動能力を発揮できるよう設計されている。被験者は心拍モニターとマスクを装着し、トレッドミルか固定式のバイク上で運動する。マスクには、運動中に吸い込む酸素と吐き出す二酸化炭素を分析する機能が備わっている。軽いウォームアップの後、これ以上続けられなくなるまで、速度と傾斜(バイクの場合はペダルの負荷)を上げていく。「ほとんどの人がトレッドミルを選びます。トレッドミルの方が全力を出しやすい、と感じる人が多いからです」とリンドルムは言う。ランニングはサイクリングよりも多くの筋肉を使うので、VO2 maxの値がわずかながら高めに出やすい。運動選手の場合、種目に応じた測定装置を用いることも多い。例えば、ボート選手には屋内ローイングマシンを、クロスカントリースキー選手にはスキー用トレッドミルを使用する、といった具合だ。テストの進行に合わせ、1回の呼吸ごとに吸い込む酸素の量(VO2)と吐き出す二酸化炭素の量(VCO2)が分析される。運動の強度を上げても酸素消費量がそれ以上増えなくなった時点で、VO2 maxに達したと見なされる。実際、その瞬間は明確に体感できる。呼吸が速まり、両足が熱をもち、口をきくのもやっと、といった状態になるのだ。専用のラボ施設では、実際の心拍数と予測最大値との差異や呼吸交換率(RER)の高さといった基準値を追加的に用いて結果を評価することも多い。ただし、こうした専門施設での検査を誰もが気軽に受けられるとは限らない。費用は施設によって、あるいは追加測定項目の有無によって異なるが、自己負担額は200ドルから400ドル(約3万円〜6万円ほど)、あるいはそれ以上になることもある。一方で、一部の大学研究室や地域のクリニック、研究調査グループが、科学の推進を目的として低額もしくは無料の検査を実施する場合もある。専門施設外での測定Photograph: Brent Rose専門施設での測定が難しい場合、信頼性が認められたフィールドテストを行うことで、有用な推定値を得ることは可能だ。ロックポート1マイル歩行テスト(Rockport One-Mile Walk Test): 1マイル(約1.6km)の平坦なコースを、走らずにできるだけ速く歩き、ゴール時の心拍数を記録する。その数値をオンライン計算ツールに入力し、VO2 max推定値を算出する。結果を年齢や性別ごとのチャート表と比較できる。クーパー12分間走テスト(Cooper 12-Minute Run Test):12分間に走った距離を測定し、その数値を計算式に当てはめて得られた結果を標準値と比較する。厳密な数値は得られないが、おおむね十分な目安とされる「極めて良好」、「良好」、「普通」、「やや不十分」、「不良」の5段階で心血管機能の状態を評価する。ガーミンやWHOOPなど、VO2 max測定機能を備えたウェアラブル機器もある。心拍データや活動パターン、ユーザーが入力した年齢や性別などの人口統計情報を利用してVO2 maxを推定する仕組みだ。ただし、これはあくまで推定値であり、多少の誤差を含む可能性がある。それでも、同じ人のなかでは前提条件が大きく変わるわけではないため、自分なりの基準値を把握し、その後の変化を追跡するには十分に役立つ。「わたしのOura Ringはおそらく専門のラボ施設ほど正確なVO2 max値を示してはくれないでしょう。しかし、例えば新しい運動習慣を始めるときや加齢による変化に対抗したいとき、自分の進捗を管理する手段として、十分に役立ってくれるはずです」とイェール大学のガードナーは言う。「ほとんどの人が、そこに実質的な価値を見いだせるはずです。また、さらに高度な検査が必要になったのであれば、それを実施するのも可能です」VO2 max測定の限界多くの人にとって、真のVO2 max値に到達することは予想外に難しい。「運動選手でない人にとって、酸素摂取量を最大まで上げることは容易ではありません」とスタンフォード大学のリンドルムは言う。そのため研究の現場では、限界まで負荷をかけない「サブマキシマル(亜最大)運動試験」を行い、そこで記録された「VO2ピーク値」と呼ばれる最大値を使用することが多い。「さまざまな基準を満たしていなければ、実質的なVO2 maxと見なすことはできません」とリンドルムは言う。例えば、運動負荷を上げても酸素消費量の上昇がそこで停止する、心拍数がほぼ上限に達している、極度の運動強度が自覚されている、といった基準だ。これらの指標が揃っていない場合、測定された数値が示すのは生理学的な限界ではなく、その人の“頑張りの度合い”にすぎないかもしれない。テストの実施方法も重要だ。「誰が、どんな状況で測定するかによって、結果は変化します」とリンドルムは言う。適切な方法とタイミングで、安全に被験者を後押しできる技師が検査を担当すれば、自分ひとりで、あるいは最小限の監視下で測定した場合に比べ、よりよい結果が出るはずだ。わたしがVO2 max測定テストを受けた施設では、「記事の執筆にはChatGPTを使うのですか」などと、担当技師に何度も話しかけられた。測定のために死力を尽くしている最中に、これは勘弁してほしかった。Photograph: Sergey Mironov/Getty Images日々の体調の変化も結果に影響を及ぼす。睡眠、栄養や水分摂取、疲労の回復状況はもちろん、使用する器具の違いがテスト当日のパフォーマンスに影響することもある。「持久系スポーツでは、投資が結果となって返ってきます」と、イリノイ工科大学のマクウォリティは言う。彼が率いる研究チームは、カーボンプレート内蔵のランニングシューズを着用することで走行効率が向上し、高い負荷をかけられても疲れにくくなるため、酸素摂取量関連のパフォーマンスをわずかに改善できることを突き止めたという。これらの要因を考え合わせると、VO2 maxは体力の優劣を示す固定的な指標ではなく、状況によって変動するスナップショットと見なすべきものであることがわかる。VO2 maxは、類似の条件下で長期的に追跡し、運動の成果や健康状態を示すほかの指標と併用することで、その有用性を最大化できるはずだ。VO2 maxを高めるには有酸素運動をする:ランニング、サイクリング、ローイング(ボート漕ぎ)など、心拍数を上げ、呼吸を活発にする運動は、VO2 maxの改善に最も直接的な効果を発揮する。「運動耐性が極端に低い人は、ウォーキングから始めて徐々にVO2 maxの改善を図るといいでしょう」とイェール大学のガードナーは言う。負荷を上げ、変化を加える:有酸素運動への耐性が増すにつれ、向上を維持するためにさらに強度の高い運動が必要になるだろう。HIITをはじめとするインターバルトレーニングは、酸素摂取量を上限に近づける効果が特に高い。体重を減らす(必要に応じて):VO2 maxは体重1kg当たりで算出されるため、有酸素能力の絶対値が変わらなくても、体重を減らすことでVO2 maxの改善が望める。記事に登場した専門家たちのプロフィール(Originally published on wired.com, translated by Mitsuko Saeki, edited by Mamiko Nakano)※『WIRED』による運動の関連記事はこちら。Related Articles持続的な運動が、分子レベルで老化を遅らせる:研究結果タンパク質の摂り方──量、質、タイミングの基礎知識AIヘルスコーチに毎日走り方を相談していたら、友達に心配された話雑誌『WIRED』日本版「THE WIRED WORLD IN 2026」好評発売中!未来の可能性を拡張するアイデアとイノベーションのエッセンスを凝縮した、毎年恒例の大好評企画の最新版「THE WIRED WORLD IN 2026」。世界中のクリエイターや実業家、科学者など40名超のビジョナリーが、テクノロジーやビジネス、カルチャーなど全10分野において、2026年を見通す最重要キーワードを掲げた総力特集! 詳細はこちら。